店主は言う。
「伝統工芸は完成された製品だけではない。材料も道具も伝統工芸なんだ」
桐生の本町通りに江戸時代から続く染料店がある。
当初は乾物屋だった。その後、荒物屋となり、
大正時代に染料店となり、現在の姿となる。
終戦後まもなく、スカジャンは此処、桐生の地で製作されていた。
その当時の製造方法を残したい、そう思って日々行動していると
いろいろな味わい深い人々にお会いする。
冒頭の店主もそのひとり。
現在市場に出回っているスカジャンは99%コンピューター刺繍である。
当時の製造方法は、生地に下絵を型付け(プリントのようなこと)して
横振りミシンで1枚ずつ、縫う人の感覚によって刺繍していた。
その際に使用する膠(にかわ)や青華(あおばな)、
それらを生地に摺る丸刷毛(まるばけ)。
これらの材料や道具を製作する人々がいなくなって久しい。
現在では生産できない材料や道具は多い。
画像は、型付け用の丸刷毛(まるばけ)。渋紙も添えて。
桐生の隣、栃木県足利市で生産されていた丸刷毛も後継者がなく、
いまでは生産することができない。
全国でも珍しいこの丸刷毛はこの地域特有のものだった。
ほかにも型付け用顔料として使用されていた青花や
中綿を整えるためのふのりもいまでは貴重なものとなっているが、
ここ桐生には現在でも確かに存在する。
舶来の化学品に対する、日本古来の材料を和物(わぶつ)という。
その問屋もすでに数えるほどとなっているそうだ。
スカジャンの歴史を残すため、これらの材料の保存にも取り組む
決意を新たにしたのであった。